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仙台高等裁判所 昭和40年(く)41号 決定

少年 M・Y(昭二二・五・一四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一件記録によれば、少年の法定代理人父N・Kが弁護土大川修造を附添人として選任したのは、本件保護処分決定が言い渡された後であることは明らかであるから、右附添人は少年法第三二条により保護処分決定に対し独立して抗告をなし得ないが、本件抗告は右附添人が少年の任意代理人としてなしたものと解するのが相当である(最高裁判所昭和二四年一月一二日大法廷判決参照)としても、本件保護処分決定に対してはすでに昭和四〇年一一月五日少年から抗告がなされ、同月一三日当裁判所において右抗告を棄却する旨の決定をしたので、もはや右抗告をなし得ないし、またこれを少年の抗告趣意を補なうものとして取扱うことも不能であり(一一月一〇日原裁判所に提出された本件抗告申立書が、当裁判所に送付されて来たのは同月一五日である)、結局抗告の手続が規定に違反したことに帰する。

(なお、論旨は、要するに少年の抗告趣意と同様本件保護処分決定に対し、処分の著しい不当があること主張するものであるが、少年の抗告に対し判断したように右決定が少年を中等少年院に送致する旨言い渡したのは相当であつて、所論のように処分の著しい不当があるものとは認められない。)

よつて少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 細野幸雄 裁判官 畠沢喜一 裁判官 寺島常久)

参考一

附添人弁護士の抗告理由(昭和四〇年一一月一〇日付)

一、本件は少年の全く偶発的事件である。

イ、調査官の報告書によれば少年は学業稍々不良であり、怠学はときどきあるが非行集団との関係は無く、交友関係も普通である。

ロ、又審判調書によれば、少年はかつて女と関係したことはなく、学校で女の話などときどきする程度であり、エロ雑誌は見たことがなく、映画も余り見ない。

ハ、従つて女性に対して異状な関心を持つているわけではなく思春期にあり勝な、性的欲求も異状に高いと云うのではない。

ニ、従つて本件は、少年が運動会の帰り、岩沼駅え下車したところ、○泉○○子が自転車に乗つて走つて行く姿を見て突然に異性に対する関心を起しての非行であつて、再犯の危険が特に高いということは出来ない。

二、イ、決定理由の中で、犯行の動機が悪質だといつているが何に基いて然く認定したのか理解に苦しむ、本件犯行について特にその動機に悪質さは少しも見られないばかりでなく、前叙の如く動機は全く単純である。

少年は運動会の帰りでありうきうきした感情でいたところえ、偶々自転車に乗つて行く○泉○○子の肉運動を見ての全く突発的犯行である。

ロ、同じく決定理由中で「……犯行の手段方法等、犯情極めて悪質である」と認定しているが、一体何に基いて然く認定したのか理解し得ない。

少年は自分の乗つていた自転車を右被害者の自転車にぶつつけたのであるが之の事は然く悪質であろうか、又その他の方法に於ても女性に対して始めて接近する少年の犯行としては普通の方法であつて決して悪質なものではない。

三、少年法はその第一条に於て明言する通り少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対しては性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的としているのであつて、些もその他の理念をさしはさんではならない。

決定に於て「……家路を急ぐ学校帰りの女子高校生である被害者に与えた精神的肉体的苦痛は量り難いものがあり、且つ被害者以外の婦女子、特に通学女子、中、高校生等に及ぼす影響は大きい」といつているが、この前半は応報刑的思想に毒されたものであり、後半は一般形式的な刑事政策に基く思想であつて、少年法の目的を忘れたものといわざるを得ない。

四、少年院に収容することによつて、決して少年に対する矯正の実を挙げ得ないことは、我々は卒直に認めねばならない。

少年院の目的がどうであれその施設が現在どうであれ、之によつて少年は寧ろ悪性化こそすれ、決して矯化されないのが現実である。

われわれはこの現実を素直に認め、その上に立つて少年に対する保護育成、矯化の途を選ばねばならない。

然るときは少年に対しては保護観察に付するのが最も正しい方法であると考える。

決定にもある通り、少年の保護者の智能が低く情操教育の面についての配慮が欠けているというのであれば、その補いを保護観察に求むべきであり、少年院送致は少年を殺す結果になる。

五、被害者に対しては見舞金を一万円支払つたのであるが更に被害者との間に示談も成立した。

六、少年は審判調書によつて明かなように素直に犯行を認め罪のつぐないをすると言つており、既に改悛の情が著しい。

依つて少年を少年院に繋ぐのは著しく不当な措置であり、保護観察に付するべきものと考えるので原決定の取消を求める。

参考二

少年N・Yに対する原審決定後の経過

昭和四〇年一〇月二七日 中等少年院送致決定(原審 仙台家裁 昭和四〇(少)一七六九号)

昭和四〇年一一月五日 少年本人から抗告申立

昭和四〇年一一月六日 少年の法定代理人父から抗告申立

昭和四〇年一一月一〇日 附添弁護士からの抗告申立

昭和四〇年一一月一三日 少年からの抗告申立について抗告棄却決定(仙台高裁昭四〇(く)三九号第二刑事部)

昭和四〇年一一月一五日 附添人弁護士からの抗告申立書高裁に送付される。

昭和四〇年一二月九日 少年の法定代理人父からの抗告申立について 抗告棄却決定(仙台高裁昭四〇(く)四〇号第二刑事部)

昭和四〇年一二月九日 附添人弁護士からの抗告申立について 抗告棄却決定(仙台高裁昭四〇(く)四一号第二刑事部)

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